政府は医療費抑制のため在宅医療を勧めている。
しかし、その実態はひどい。
私の母は90歳で亡くなった。重度の認知症で有料老人ホームに入っていた。寝たきりで、去年(2017年)10月急に様子がおかしくなった。
母が寝たきりになったのは数年前、病気(確か急性腎臓炎)で救急病院に入院した結果だった。
救急病院では認知症の母が点滴を自分で抜いてしまうとして両手を拘束してしまった。
拘束されたまま入院が長引いて筋力が衰え、母は寝たきりになってしまった。
このとき、私は2度と母を救急病院には入れまいと思った。
高齢の母の残りの人生は少ない。それを拘束されたまま終わらせるのは見ていられない。
母の入居していた有料老人ホームは医療機関と提携していて、2週間に1回程度検診がある。病気の投薬もしてくれ、看護婦は24時間常駐している。
私は有料老人ホームでの看取りをお願いした。
結局、母はその後、20日ほどして亡くなった。私は毎日見舞った。
この間、医師が往診してくれたのは3度ほど。1度は私が強く要望しての往診だった。
母は血行が悪くなって、足が壊死し始めていた。私は毎日足をさすった。さすったあとはちょっと血の気が戻ったようだった。
母の命が助からないのは私にもわかっていた。
しかし、医師にはせめて頻繁に様子を見に来て、最期を迎えるまで快適に過ごせるよう、できるだけのことをして欲しかった。
もっと頻繁に往診してくれるよう私がお願いしたのに対して、医師は「末期のがん患者でも、往診は2週間に1回ぐらいです。看護婦が状態を見て、状態が変わったら、連絡をくれるので、また見に来ます。」とのこと。
要するに患者の家族からの要望で往診することはない。
患者の状態を診るのは医師ではなく、看護婦。その連絡を受けて医師が動くということらしい。
「何かできることはないのか」という私からの強い要望で、ようやく足の血行を促す軟膏を出してくれた。「あまり効果は期待できないですよ」と言いながら。
私は患者の状態を見て、病状を判断するのは医師の仕事だと思っていた。
患者を診るノウハウは医師ならではのものと思っていたが、少なくとも私が相対した医師はその部分を看護婦に丸投げしていた。
母は眠るように静かに逝ってくれたので、私は病院ではなく、有料老人ホームで看取ったことを後悔していない。
管につながれて、拘束されて死ななくて本当によかったと思っている。
しかし、医師の往診の頻度や、往診する医師の能力について、あまり多くを期待できない在宅医療の現状については、世の中の多くの人の期待を裏切るのではないかと思う。