成年後見制度は認知症の老人に成年後見人をつけ、財産を管理させる制度である。そして、成年後見人が勝手に財産を横領しないよう家庭裁判所が監視する。
監視は年に1度、簡単な報告書を出させ、それを家庭裁判所がチェックするというもの。
このチェック機能がほとんど働いていないから、横領事件が相次ぐ。
【弁護士】
成年後見人には家族や弁護士、司法書士がなるが、巨額横領事件でニュースになるのはほとんど弁護士である。
私の母の場合もそうだったが、弁護士は家庭裁判所の依頼で引き受けてもらう。頼んだ手前、家庭裁判所も弁護士を厳しくチェックできないのではないか。
また、司法書士に聞いた話では司法書士の場合、司法書士会のチェックがあるが、弁護士の場合、弁護士会のチェックはなく、「やりたい放題」なのだという。
テレビ・ドラマの世界と違って、弁護士は特に倫理観の高い人がなるわけではない。弁護士になるのには司法試験という、頭の良さのチェックはあるが、心の良さのチェックはない。
私の母についた成年後見人の弁護士も、時間を守らなかったり、連絡がつかなかったり、社会人としての最低のマナーが欠けていた。
弁護士が「儲からない」と言いながら、成年後見人を引き受けるのには経済的な理由がある。
私の母についた弁護士は「十数人の成年後見人をしている」と話していた。成年後見人の報酬額は担当する家裁判事のさじ加減によるが、月に4、5万円程度ある。十数人の成年後見人をしていると、それだけでおそらく月収50万円以上の固定収入になる。
一方、成年後見人の仕事は事務員の片手間で済むから、弁護士にとっては非常においしい仕事である。
うちの母もそうだが、認知症の症状は年々進む。これまでできたことができなくなり、危険な徘徊が始まる。それによって、介護ホームに入れるなどの対応が必要になる。
成年後見人は痴呆老人の生活状態を把握する必要があるが、弁護士が成年後見人の場合、よくて1年に1回しか本人に会わない。
もともと成年後見人をつけることが認められるのは、とても一人暮らしができないからである。うちの場合も、お金を握っている弁護士がなかなか対応してくれず、母を長い間介護ホームに入れることができず、危険な状態に置いてしまった。
【チェック機能】
かなりあとになってから、成年後見人を私が弁護士から引き継ぎ、過去の書類を閲覧して、弁護士時代の処理のいい加減さがわかった。
たとえば、母が介護ホームに入って無人となった家を売ったさい、500万円ほど赤字が出た。赤字なので当然、確定申告の必要はない。しかし、弁護士は税理士に25万円も払って確定申告書をつくらせた。そして、申告書をつくらせてから不要とわかったらしく、この申告書を税務署に出さないままほっておいた。
弁護士の報告書の中では家族の名前さえ間違っていた。
こうしたミスを家庭裁判所はチェックした形跡はない。
痴呆老人は増え続ける。それにあわせて家庭裁判所の人員の数や質を上げることは現在の政治には無理だろう。
【家族に財産状態の開示を】
うちの母の成年後見人だった弁護士は3年間の任期中、結局、1度も母の財産状況を教えてくれなかった。何回も求めたのに。だから、私は弁護士の横領を疑った。結果として幸い横領はなかった(と思う)。不必要な支出はあったが。
弁護士が財産状況を私に教えてくれなかったのは、「財産はあなたのものではないし、あなたに教える法律的な義務はないから」だそうである。
弁護士が成年後見人になっても日々の面倒は家族がみる必要がある。でも、経済状態は知る術がない。
財産状況を家族に、あるいは遺産相続人となるものなど、利害関係者に開示するよう法律で義務付ける必要がある。そうすれば、成年後見人による横領をかなり防ぐことができる。関心の薄い裁判所の職員によるチェックではなく、利害関係人だったら、まじめに状況をチェックし、異変を発見することができる。
【会計制度も改善を】
母の家を売却した際、500万円程度の赤字が出た。しかし、報告書には大幅な赤字が記録されていた。成年後見人の弁護士が間違えたのではないかと思い、裁判所の職員に聞いたら、これでいいという。成年後見人の会計では現金出納しかカウントしないので、コストは関係ないそうだ。5000万円で買った家を3年住んで、4500万円で売っても500万円の赤字ではなく、4500万円の黒字になるという。黒字だから、財産的な余裕があるということで、その年には弁護士に対する報酬が特に多かった。
こんな非常識な会計制度では財産管理がまともにできると思えない。
【成年後見支援信託】
去年、成年後見支援信託という新たな制度が導入された。成年後見人が財産を自由に動かせないよう、1千万円以上の預金は信託銀行に強制的に預けさせ、払い戻しには家庭裁判所の決定が必要というものである。
実はうちも300万円程度の預金を残して信託銀行に預けさせられた。
この制度では家庭裁判所が弁護士か司法書士(うちの場合は司法書士にしてもらった。弁護士はこりごりだったので)を成年後見人に追加し、手続きを担当させる。手続きが終わると弁護士や司法書士は15万円程度の報酬をもらって成年後見人を退任する。あとはこれまで通り成年後見人がひとりで後見をする。
ところで、信託銀行の運用利回りは普通の銀行と変わりない。日本の場合、銀行は護送船団方式で制度に守られてきたから、どこも資産運用や信用調査能力は欧米の銀行のように発達してこなかった。結果として弁護士や司法書士に払う15万円程度が認知症の老人の財産から奪われることになる。私は家裁の判事に手続きは自分でやるから弁護士や司法書士は関与させない形でできないかとお願いしたが、却下された。
なぜ、このような制度を導入したのだろうか。
私の勘ぐりでは、ひとつは弁護士や司法書士の収入源を増やすこと。司法制度改革で弁護士が増えて一人当たりの収入が減っていることも背景にあるのではないか。
もうひとつは安倍政権の経済対策に貢献すること。信託銀行は長期資金の運用として国債や株を買うことになるから、国債の消化や高株価に寄与することになる。導入した司法関係者には安倍さんからいいポストをあてがわれたのではないか。