【あいつぐシステム・トラブル】
日本の行政や大手企業にはシステム開発が苦手な所が多いように思う。銀行の取引や鉄道会社、航空会社の発券システム、国の年金問題、住民基本台帳カードやマイナンバーカードなどお粗末な対応が相次ぐ。

【欠陥の原因は入札制度】
原因は入札制度にあるように私は思う。
入札では発注担当者がどんなシステムにするか仕様をまとめ、それをもとに複数の業者に入札してもらう。
最も安い価格を提示した業者がシステムを構築する。

【仕様書がつくれない】
仕様をつくるにはシステムにやらせる業務自体に精通している必要がある上、コンピュータがどのように動くかプログラミングについての基礎的な知識が必要である。
ところが、発注担当者にはその両方が欠けていることが多い。
発注担当者は技術担当者がなることが多いが、日本では大学の理工系学部出身者のほとんどがプログラミングの基礎的な知識が欠けている。
したがって、業務がコンピュータによってどのように実行されていくか、技術担当者が想像することができない。

【仕様書作りは大変】
きちんとした仕様書を書くのはシステム構築そのものと同じくらい大変だと言われる。
放送局勤務当時、技術担当者に発注仕様書を見せてもらったことがあるが、「きちんと動くこと。電源がショートしないこと」など当たり前のことしか書いてないのにびっくりした。
業務内容をきちんと整理し、コンピュータでどうやらせるのか、頭の中でシステムを構築する能力が求められるのである。

【プロポーザル方式】
発注担当者が仕様書をきちんと書けない時にはプロポーザル方式をとることが多い。
これは、システムがどう動くかを受注業者側に提案させる方式である。
では受注業者側はどのようにシステム内容を組み上げるのか。
発注する業務内容が要件として提示される。
ところが発注する業務内容をきちんと文書にすることも十分にむずかしいのである。
実際にその業務を担当している人間に聞いても、仕事の様子を観察しても、きちんと把握して文書化することはむずかしい。
日本の企業や役所の業務はきちんとマニュアル化していないから、なおさらそうである。
しかも受注業者が、実務の担当者に直接、業務内容を聞くことは禁止される。
「発注の公平性を損なう」とされるからである。
結果、受注業者は内容がうまくつかめないまま、システム内容と価格を適当に決めて入札に参加する。
そして、発注担当者はもっともらしい記述をしているプロポーザルの中から、最低価格の業者を選定する。

【壁】
ところで、実際にプログラミングを進めていくと、当初、想像していたやり方では、うまくシステムが動かないことがある。
いや、むしろほとんどの場合、壁にぶち当たる。
このときにどうするか。システム開発業者は発注担当者と協議すべきなのだが、発注担当者は素人だから、相談にうまく乗ることができない。
システム開発が頓挫するか、異常に遅れて期限が過ぎるか、期限が来たので欠陥システムとわかっていながら納入してしまうか。

【入札制度より協力業者を】
大手企業や行政は安価な業者を選ぶため入札制度をとることが半ば強制される。建前的にはそれが効率的なお金の使い道である。
しかし、本当に安上がりなのは、業務の担当者とシステム開発業者が相談しながらシステムを構築していく方法である。
システムを開発するとき、手作業でやっていることをそのままコンピュータにやらせるよりも、コンピュータにあったやり方でやらせるほうがいいことも多い。
やり方を変えてもいいのか、それによる影響はどの程度まで広がるか、関係する部署はそれを受け入れてくれるのかきちんと協議を進めるためには、開発業者が直接関係部署と相談していくのが不可欠である。
そうした強力業者をかかえていくことが、仕事の変化に迅速に対応できる鍵になる。

【協力業者との力関係】
協力業者をかかえることは重要だが、一方で、特定の業者に長年、システム開発を依存すると、発注者側よりも受注者側の方が力関係が上になることがある。
受注者側がやりたくない仕事は「それはこんなに費用がかかる」とオーバーな見積もりを示して、無知な発注者側を操縦しようとする。
発注者側の要望を長期にわたって無視し、店晒しにする。
そうしたときには別の業者をみつけて発注し、協力業者との間に緊張関係をもたらす。
発注者側が知識や経験を蓄積し、常に新しい開発業者をみつけようという努力は継続する必要がある。

【発注のプロを】
ところで発注担当者は行政や大企業の場合、異動でころころ変わる。経験は引き継がれることがない。毎回、素人が発注担当者になり、お粗末な仕様書をつくって失敗を繰り返す。
反対にきちんとした仕様書をつくれれば、システム開発業者は、かなりの程度、迅速に、しかも使えるものを開発する。
発注者にきちんとした仕様書をつくれる能力があれば、システム開発業者が言うことを聞いてくれないとき、別の業者をさがすことも容易になる。
失敗が表面化しないのは、それを使う現場担当者が、欠陥が表面化しないよう、使い方を工夫するか、使っているふりをして、実は新システムを使わないようにするからである。